4人の少年少女だった。精鋭部隊、あるいはせめて一騎当千のツワモノを期待していたカスピアン軍は多いに失望、失望の余りに内ゲバまで始まる始末。
しかし4兄弟は次々にものいう獣、怪物を味方につけ、戦いを有利にもっていく。
正規軍には弱点があった。それは森に対する恐怖である。元々テルマール人(バウンティ号船員の子孫)は船乗りであったし、また啓蒙主義の時代の民としては、樹木が言葉を発するのは狂気としか感じられなかったらしい。
それを逆用し、4兄弟は森を目覚めさせ、テルマール軍に対抗するよう説得を続けた。そしてその説得は実を結び、会戦の日に動き出す森森を目の当たりにした正規軍は戦いをそっちのけにして逃走。王は部下に刺殺され、ここにナルニアの王位はピーターらの手に戻ることになる。
そしてピーターはその王位をすぐさまカスピアンに譲り、ここにナルニア最後の王朝「カスピアン朝」が開かれることになった。
事を済ませた4兄弟は再びイギリスに戻されるが、トウの立ちすぎたピーターとスーザンは最早ナルニアには戻ることはないのであった。
(ナルニアに行き来するには年齢制限があるのだ。。。ちなみにピーターは「最後」に戻ることになるが、スーザンにはその機会は与えられなかった。というのは彼女アメリカに渡り、戻ってきてからは「アメリカかぶれ」になったからである。アスラン(=原作者)はOld Englishmanらしく、戦争後、急速に成り上がったアメリカを快く思っていなかったらしい)
この「角笛」は、フランスの伝承詩「ロランの歌」がモチーフになっている。「ロランの歌」とは、以下のような物語である。
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フランク王国国王・シャルル大帝は長らくスペインでサラセン軍と戦っていたが、漸く和平が成り、本国に帰還することとなった。そして殿軍に甥のロランを選び、フランスに向けて出立した。
しかしサラセン軍は誓約を破ってこの殿軍を攻撃、たちまちロランは窮地に陥る。ロランは角笛を吹いて援軍を呼ぶようにと勧められるが、助けを呼ぶのは武将の恥、として彼はそれを拒む。
しかしサラセンの大軍の前に殿軍は崩壊、遂にロランは笛を吹く決意をする。その音を聞いて本隊が駆けつけるが、時既に遅く、そこにはロランらの屍があるのみであった。
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という話である。史実をもとにした伝承であって、完全な史実ではないが(スペインでフランク軍が戦ったのは事実だが、戦いの相手はイスラム軍でなく、バスク人)、<危機の際に助けを召喚する角笛>というモチーフは「カスピアン王子の角笛」と同じである。
作者ルイスはケンブリッジ大学で中世・ルネサンス文学を教えており、このようなヨーロッパの古伝説にはことのほか詳しかった。そのせいか、この物語には古伝説からとられたモチーフが、至るところで使われている。
たとえば「テルマール征服」、つまり<外来民族が支配者となる>というモチーフも、ヨーロッパではよく見られた歴史である。イングランドでは周知の通り「ノルマン人の制服」によって、アングロ・サクソン王統が断たれ、フランス人が支配者となったし、スコットランドでは「デーン人の侵入」により、一時は王の支配が及ばなくなったのである。
またそもそも、テルマール征服は、ゲルマン人の侵入と重ね合わせられ、ナルニアのテルマール時代は、ヨーロッパ中世の始まりと二重写しになっている。
前作とつなげて言えば、
4王時代(ナルニア黄金時代) →テルマール人征服→テルマール王朝→カスピアン即位→大航海
VS
ローマ時代(ヨーロッパ黄金時代)→ゲルマン人侵入 →ゲルマン諸王朝→ルネサンス→大航海時代
と、見事に対称をなしていることが分かる。
この図からわかるようにヨーロッパの歴史では、ルネサンスの次に大航海時代がやってくるが、それを先導したのがポルトガルのエンリケ航海王子である。実は、カスピアン王子というキャラクターは、このエンリケ王子をモデルにしたようで、実際、彼は次作で大航海に乗り出すことになるのである。